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「あなたがシン様のお知り合いの方?」
昼食を運んできたメイドさんに一口だけでもと言われてシチューをチビチビと口に入れている時だった。
扉が開く音につられて顔を動かせば、波うつ金色の長い髪を揺らし、空色の目を持つ綺麗な女性がドレスを身にまとって立っている。
突然の訪問者にポカンとしてしまうと、部屋にいたメイドさんが「アガタ様!」とその女性を見て名前を呼んだ。
アガタ様。海を挟んで隣にある、セルペンテ国と友好関係を持つジーア国のお姫様。そしてルニコ様が決めたシン様の婚約者。
アガタ様は私の側までつかつかと歩いてくると立ち止まり、ソファーに座って動けずにいる私をじっと見た。
つりがちな目やスラリとした体つきが凛とした雰囲気を放っていてよく似合っている。
「シン様はお優しいのね。ご慈悲でこちらの王宮に住まわせていらっしゃるのでしょう?」
「王宮の前に傷だらけで倒れていたあなたを保護するとは、なんてお優しい方なの……」とうっとりしたように話す様子にどう返したらいいのか困る。
話を聞いていると、ルニコ様が早くに奥様を亡くしシン様は一人息子。私はシン様に保護された人だと思われているらしい。
「これからはわたくしがシン様の婚約者としてあなたの面倒を見てさしあげるわ」
「それならシン様の負担が減るものね」と口元を引き上げるアガタ様に私は口を開き――何も言わずに閉じる。
なぜならアガタ様の目はちっとも笑っているように見えなかったから――……。