早くシン様と元の時代に帰りたい。
こちらの時代にくる前にシン様に直してもらった、首にかけているチェーンに触れてやがて指輪をギュッと握る。
誰もいないこの部屋の中では、手の中の指輪だけが感触のある心の拠り所だった――。
***
「え……」
謁見の間に向かうからと久しぶりに部屋を出られてルニコ様と対面する。
ルニコ様の隣にはシン様が立っていて無事な様子に胸がいっぱいになって。泣くまいと必死に耐えていたらルニコ様から質問が投げかけられた。
「娘――名をカルドーレと言うそうだが、シンと婚約者と言うのは真実か」
「シンが毎日お前を部屋から出せとうるさくてかなわん」と眉を寄せるルニコ様。
確かに試験が形だけだと知ったあの日、婚約者になった。でもそれもやっぱり形だけのもので、ルーチェ様と正式な婚約者のリィちゃんとは違う。
眉を下げた表情のシン様を見て、何て言ったらいいのか迷ってしまう。
そうだと言う?
――でも目の前で証拠を見せろなんて言われたらどうしよう。
形だけだと言う?
――でもそうしたらシン様が嘘を言っていると思われるかもしれない。
きっとシン様は私を部屋から出してくれようとしてルニコ様にそう言ったんだと思うし……。
うつむいて考えこむ私の耳に長く息を吐き出したのが聞こえた。
「すぐに答えられぬなら私は否ととらえるぞ」
「カル……っ」
ルニコ様の厳しい声の後にシン様の悲しそうな呼び声が聞こえて泣きそうになる。
どうしたらいいか分からないよ……!
「……婚約者だと言うなら会う時間を作ってやろうと思っていたがその必要はないようだな。シンは役に立つ優秀な男よ。ここにいる間は働いてもらう」
「そんな……! 僕は彼女との時間を作って下さるとおっしゃるから何日も寝る間も惜しんできたのに――」
「しかし娘は何も言わん。お前の独りよがりか?」
「それは……っ」
言葉を切ったシン様に私は恐る恐る顔を上げた。
シン様はルニコ様の側を離れ、やがて私の前で足を止める。
赤い目をユラユラと揺らしているように見えたと思ったら、シン様は私を強く抱きしめた。
「シン様……っ?」
「カルのそういう色々と懸命に考える所、僕は好きだよ。――でも、今は少し憎らしいかな」