「……この部屋はどこかおかしいな。カルもそう思わないかい?」

「はい。なんだか宝物部屋なのにそうではないような気がします……」

「とりあえず部屋を出てみようか」

 シン様に促されて出口のほうへと振り返る。
 その瞬間はっきりとした違和感があった。
 先ほどまでいた部屋とは宝物の並び方が明らかに違う。
 部屋は同じに見えるのに中だけ瞬時に変わっているような奇妙な感覚に体が震える。

「シン様……っ」

「大丈夫。僕の手をしっかり握っていて」

 扉まで歩いてシン様が取っ手に手をかける。すると扉は開くことなく、ガチャガチャと施錠されていることを知らされた。

「そんな……っ」

 部屋に入る時に鍵は開けてそのままだった。鍵だってシン様が手に持っていたのに……!

「おかしいな……持っていた鍵がない」

 シン様がポツリと言った言葉に体がさらに震える。
 私達はどうなってしまったの……?
 シン様は私と片手を繋いだまま、厳しい表情で扉に耳をあてる。
 少しして耳を離し、鍵を静かに開けた。

「人に見つかる前にここを離れるよ」

「はい……」

 未知の恐怖に私は小声で返すのがいっぱいで。
 確かなものは手を繋いでいるシン様だけ。離さないようにと私は震える手に力をこめた。
 部屋を出ると人気のない廊下が広がり、王宮の中であることは間違いないようで。
 足音をたてないように歩きながら辺りの様子を見ても、奇妙な違和感を感じるばかりだ。

「王宮であることは間違いないみたいだね。けれど違うところがいくつもある」

 声をひそめて言ったシン様が窓を見る。

「まずは時間帯が違う。僕達は午前中に宝物部屋に入ったのにここはもうすぐ夕暮れだ。庭は綺麗に管理されていたはずなのにここは荒れきっている。それに廊下にある明かり用の蓄力石の間隔が広くなっているし、天井のものも数が少ない」

 庭の景色は私も気づいたけれど、シン様は些細な違いにも気づいているみたいでどんどん表情が険しくなっていく。

「――少なくとも僕が幼い時から見ている環境ではないみたいだ」

 それきり黙ってしまったシン様にますます不安になっていく。
 私達はこれからどうしたらいいの……?
 途方に暮れていると背後から足音が聞こえて勢いよく振り返った。