小さく笑ったシン様は私の腕に巻きついた蛇を優しくつかんで自分の手の上に再び置いた。
「蛇神様の本来の姿は白い大蛇と言われているから蛇神様本人ではないけれどね。さっき話したようにこの蛇は分身だから、街などで白蛇を見かけたら間違いなく僕か父の分身だよ。蛇が見た情報を僕達が共有しているんだ」
「そうなんですか……!」
「例えば蛇が見ている所で問題があれば場所を特定して向かうことができる。国内の様子を知るには便利な力かな」
シン様の能力に感動していると手のひらの蛇は消えてしまった。残念。
「――そういえば、カルは僕の部屋まで誰ときたの?」
ふいにこてんと首を傾げたシン様に私はギクリとする。
会いたい一心でここまできたから、微かな明かりの中の長い廊下を一人で歩いてきた。
視線をさまよわせる私に気づいたのかシン様の目がスッと細くなる。
「――まさか一人できたなんて言わないよね……?」
「そ、それは……っ」
低くなった声に私は慌てて立ち上がる。
このままでは怒られるかもしれないと思い、「お大事にして下さいね!」と言って扉へと走り出した。
けれど扉にたどり着くずいぶん前に腕の中に捕まってしまう。
「逃げたってダメだよ。この姿の時は体に多少の負担がかかるけど力は強くなるからすぐに追いつくからね」
「すみません……。慌てて部屋を出てきたので……」
腕を外され、聞こえた息を吐く声に恐る恐る後ろを向く。
怒っていると思ったシン様は予想とは違って困ったように笑みを浮かべていた。
「まいったな……。カルは僕の予想の上を行ってばかりだよ」
「シン様……?」
意味がよく分からず聞いても何でもないと濁されてしまってシン様の気持ちは読み取れず。
とりあえず怒っていないようで安心した。
「それじゃあ帰りは小さな護衛に送ってもらうことにするよ」
笑顔のシン様のもとに現れた姿に私は目を丸くする。
就寝の挨拶を交わした私は、長い廊下を足元に気をつけながら、可愛い護衛に部屋まで連れて行ってもらったのだった。