目を細めるお母さんの言葉にまた泣きそうになる。
久しぶりに会えたのにそろそろ王宮に戻らなければならなくて。
お母さんには振り回されることが多いけど、しばらく会えないかと思うとやっぱり寂しい。
私のほうを見たお母さんは眉を下げた後に近くにあったふきんで私の目をゴシゴシとこすってきた。
「お、お母さん、痛い……!」
「一生の別れじゃあるまいしメソメソするんじゃないよ!」
「ほら行きな」と体の向きを変えられて勢いよく背中を押される。
露店の中から出て振り返れば手を振ってくれていた。
「体に気をつけるんだよ!」
「――うん……!」
私は大きく手を振り返してお祭り会場をみんなと去った。
***
「今日は楽しめた?」
夜、いつもの報告に執務室へ向かうとシン様はソファーに座っていた。
隣に座らせてもらうとそう聞かれ、私は浮かれたようにはいと返す。
「僕も行けたらよかったけれど仕事が立てこんでいてね……」
残念そうなシン様に気分転換になればと持ってきたお母さんのクッキーを差し出した。
「お母さんからもらったクッキーなんですけど、よかったら召し上がって下さい」
「ありがとう」
袋を受けとって開け、クッキーを一枚取り出してそれを見たシン様がふと笑う。
いつもの笑顔とは違って見えて私は首を傾げた。
「ああ、ごめんね。小さい時のことを思い出してしまって。母がよくルーチェにねだられてお菓子を作っていた時のことをね」
「フィオン様がですか?」
「うん。ルーチェは僕よりも甘いものが好きでね。一度にケーキを何個も食べるくらいの甘党なんだ。だから母はケーキやマドレーヌ、マフィンにクッキー、色々なお菓子を作っていたよ」
「すごいですね!」
「ありがとう。でもこのクッキーも……うん。とてもおいしいよ」
クッキーを一口食べたシン様がふわりと笑ってくれて嬉しくなる。
私も自分用に持ってきたクッキーを一口。サクサクとした感触とバターの香りが広がっておいしい。やっぱりお母さんの腕には勝てないなぁと改めて思う。
「カルはお菓子作りはしないのかい?」
一枚を食べ終えたシン様が私のほうを見て首を傾げた。
私は喉につまりそうになったクッキーをなんとか飲みこんで返す言葉を考える。