王宮での生活にほんの少しずつだけど慣れてきた頃。
季節は暖かな春から太陽が照りつける夏へと移り変わっている。
六月の建国記念の式典では私とリィちゃんは王宮の中でお留守番だった。
リィちゃんはルーチェ様の正式な婚約者だけど国民への発表はまだ時期を見送っているそうで。
待っている間リィちゃんは退屈そうにしていたけれど、私はシン様の気遣いが正直嬉しかった。
部屋で荷物を整理しながらお気に入りのワンピースはそろそろお休みかなと思っていたら、お母さんから渡されたとお父さんの手から荷物が届けられて直ぐに開け始める。
大きめな鞄の中には夏向けの薄手のワンピースや短い袖のシャツに七分丈のパンツが数着ずつ、新しい下着などが入っていた。
下着以外は家で着慣れているものなので嬉しくて、その気持ちのまま一緒に入っていた手紙を開く。
お母さんには似合わない可愛い便箋に少しだけ笑い声をもらして紙面に目を走らせた。
――カルドーレへ
もう夏だけど元気にやってるかい?
必要ないかもしれないけど、服などを父さんに持たせたからね。
店は相変わらず繁盛しているからまかせときな。
ところで地区祭りにはくるのかい?
もしくるんだったら顔を見せな。待ってるからね。
――母さんより
お母さんらしい短い文章を読み終わり、地区祭りの言葉に気づく。
クオーレ地区では毎年八月に祭りが行われている。
祭りと言っても神様に関係するものではなく賑やかな催し物で、広場にたくさんの露店が並び思い思いの時間を過ごす。
他の地区の人も参加可能で、主に露店を出しに数日前からクオーレ地区を訪れているらしい。
お祭りか……。
すっかり頭から抜けていたけど気がつけば行きたくなる。
毎年お祭りがある二日間はお店のお客さんが少ないから早めに閉店してお祭り会場に行っていた。
本当に色々なお店が並んでどこに寄ろうか目移りして、見ているだけで楽しくて。
でも今年は難しいかな……。
今までと状況が違いすぎるし、忙しいシン様に聞くのも申し訳なくて。
お母さんに会えないと思うと少し寂しい気持ちになった。