帰るつもりでシン様の枕元に置いたのだけれど、まだしばらくお世話になることが決まったため、持っていてとシン様に渡されていた。
腕を動かせば銀と赤が混じった月の飾りが揺れて、自分で作り直したものながら割と気に入っている。
「指輪なんてとんでもありません! 私にはこのブレスレットで十分です」
腕を動かしてブレスレットをアピール。
指輪なんて高価なもの私には必要ないと思うし、何故か候補から婚約者になっているけれど私は仮だと思っている。
「そんなこと言わないで? 形だけでも僕がプレゼントしたいんだ。ね?」
悲しそうな表情のシン様がすっと横にきて私の左手に触れる。
――シン様の悲しそうな顔には弱い。涙を見てからどうにも悲しそうな顔をされると戸惑ってしまう。
何て言おうか考えていると、触れられていた左手を持ち上げられて指に柔らかい感触がして驚いた。
「小さくて可愛い手だね。僕の手にすっぽり入りそうだよ」
「シっ、シン様……っ」
指に顔を近づけたままの様子に顔が熱くなり、私は慌てて手を引っこめた。
小さな声で少し離れて控えていたメイドさんに話し始めた。
メイドさんは目をキラキラさせ、興奮した様子でシン様と話していて間に入りにくくて。
少しの間、盛り上がっている二人を眺めていた。
***
「指輪? もらったほうがいいと思うよ」
午後からカリーナさん――ルーチェ様の婚約者なので、カリーナさんも続けて王宮に住んでいる――にテラスでのお茶会に誘われ、指輪のことを聞いてみると即答されてしまう。
フォークで切り分けたケーキを一口食べ終え、カリーナさんは自分の左手薬指にはめられている指輪を私に見せた。
「リィだってルーチェ様からもらってるよ? 目の色に似ているからエメラルドなんだ!」
大きすぎないエメラルドがはめこまれ、リング部分には細かい模様が施されていて素敵なデザイン。
カリーナさんが言うように近い色の瞳とよく似合っていると思う。
「素敵な指輪ですね」
「ありがとう! ――でね、話しは戻るけど、なんで指輪を受け取りたくないの?」
聞いてくるカリーナさんに、紅茶を一口飲んで喉を潤してから口を開いた。
「なんで、と言われても……。私はカリーナさんとは違って正式な婚約者ではないからです」