朝から色とりどりの宝石を見せられて目が回りそうになった。
 ――ことの始まりは少し前。
 朝食を部屋でいただいた後、シン様が笑顔で訪れてきた。
 手を引かれるままについていくとそこは衣装部屋で、テーブルにはたくさんの宝石が置かれていた。
 ルビー、エメラルド、ダイヤモンド、パール等々……。
 前にソレドにお客さんとしてきた宝石商の人が見せてくれたものの他、私が知らない宝石がたくさんあって思わずじぃっと見てしまう。
 いくらになるんだろうと考えてしまうのはお母さん譲りかもしれない……。
 驚きのあまりテーブルの前に立ちつくす私を見てもシン様は笑顔を崩さず、テーブルの端にある宝石を触った。
 宝石に光が反射して輝きとても綺麗だ。

「カルはどんな宝石が好きなのかな?」

 試験が形だけと知った日からシン様は私をニックネームで呼ぶことが多くなり、何日か経った今もまだ慣れない。
 穏やかな声に呼ばれる度になんだかくすぐったくて。
 問われて宝石を見るけれど、綺麗だとは思ってもほしいとは思わない。お店に並んでいたり、人が身につけているものを見るだけで満足してしまうから。

「あの、好きな宝石というのは特にありませんけど……」

 言葉の意図を理解しかねているとシン様は別の宝石を手にとって私に見せる。
 桃色が綺麗で可愛い印象のものだ。

「ローズクォーツなんてどうかな。カルの瞳の色に似ているよ」

 手のひらにコロンと渡されて固さと冷たさを感じる。
 顔に近づけてまじまじと見ると確かに自分の目の色と似ているかもしれない。
 けれど私の目は宝石みたいに綺麗なわけではないので、テーブルへと静かに置いた。

「私と比べては宝石に失礼ですよ。それに、シン様の瞳こそルビーとよく似ていると思います」

 私の近くにあったルビーを見てシン様の目を見る。赤くてキラキラしていて同じだなぁと思っているとシン様は眉を下げて困ったように笑った。

「そう言ってもらえて嬉しいけれど、今は君の指輪に使う石を選んでほしいかな」

「え……?」

 「やっぱり指輪がないとね」と嬉しそうに笑うシン様に私は慌てて手首につけているブレスレットを見せる。