「僕は君に惹かれてる。幼い時に出会ったあの日から――君のことが好きだよ」

 優しい眼差しと優しい声に胸が苦しくなる。
 はっきりとした言葉で伝えられた気持ちは嬉しいもので。けれど同時に申し訳なくなってしまう。
 私にはシン様へ返す明確な答えがないのだから……。
 手を強く握って考えてもやっぱり答えは出なくて、また泣いてしまいそうになる。

「今の君の気持ちを聞かせて? どんな気持ちでも知りたいんだ」

「シン様……」

 「ね?」と促されて私はポツリポツリと話し出す。
 お母さんの推薦でいきなり王宮へときて戸惑ったこと。
 明るく元気なメイさんに助けてもらいながら過ごしたこと。
 怪我をしてしまったけれど、リタと会えて嬉しかったこと。
 ルーチェ様の言動にハラハラしたこと。
 そして何より綺麗で優しいシン様が接してくれて嬉しかったこと。
 思いつくことを色々と話す間、シン様は相づちをうちながら聞いてくれた。

「僕のことはどう思っているのかな。嫌い? それとも好き?」

「それは……。好きか嫌いで言うなら好きです。でもそれは、家族やお客さんのことを好きという気持ちと似ているんです」

 「ですから申し訳ございません」と言おうとした言葉は音にならずに飲みこまれ、顔がシン様の胸元に埋まる。
 「よかった。嫌いではないなら安心したよ」と嬉しそうな声に、埋まっていた顔を上に動かすと頬を赤く染めて笑うシン様がいた。

「これで君を婚約者にできるからね」

「え……?」

 「早速みんなに報告しないと」と嬉しそうなシン様に私の頭の中は大混乱。
 言葉に困っていると鍵が閉まっているはずの扉が開けられた。
 ……無理に開けられて鍵が壊れている。

「諦めなよ。兄さんはキミを手に入れるためにこんな大がかりなことをしたんだからさ」