「それじゃあカル、しっかり王子様の心をつかむんだよ。あんたは押しが弱いからね、わざと転んで胸に飛びこむくらいしきゃダメだからね!」
「そんなことお母さんじゃないんだからできないよ……」
馬車に乗りこんだ私にお母さんがあれこれと助言してくれるけど、とても実行できそうにない。
お父さんはにこにこしたままだし。
「いいかい? 機会があったら手料理を食べてもらうんだよ。能力を使うよりもずっと心をつかめるはずだからね」
念を押すお母さんに曖昧に頷いて見せる。
お母さんは製造能力を使って料理をお店で提供しているけれど、実は手料理も上手で。母の持論は手料理は大切な人と落としたい相手に使う、とのことらしい。
早く家に帰ってきたい私としては料理を失敗して印象を悪くしたいけどそんなことは口がさけても言えない。連日拳骨はもらいたくないからね。
「名残惜しいけどそろそろ出発しよう」と促すお父さんに頷くと馬車はゆっくり動き出す。
「お母さん、行ってきます」
「元気でやるんだよ!」
ブンブンと大きく手を振ってくれる頼りになる人に、私は見えなくなるまで手を振り返したのだった。