蛇神王子と泣き虫娘


 耳元で声が聞こえ、後ろから苦しいほどに力を入れた腕に閉じこめられた。

「ずっとずっと君といられる日を待ってたんだ。帰したりしない……!」

 体を動かしても強く腕を回されて身動きがとれない。
 シン様が別人のように感じられて体は震え出し、涙がこぼれていく。

「離して下さい……! 私には試験を受ける資格なんてありません……っ!」

「試験なんて関係ない! 君じゃないとダメなんだ――っ」

「え……」

 試験は関係ない……?
 動きが止まる私の背後でシン様が息をのむ音が聞こえた。
 やがて笑い混じりの息を吐く音が聞こえる。

「ソファーに座ってくれるかな? 全部説明したいから」

「え――」


***


「全部嘘だったんですか……!」

 二人でソファーに座り、 シン様は試験に関することを話した。
 試験なんて形だけで結果は全く関係ないこと。
 婚約者候補の希望者の募集を本当はしていないこと。

「君のお母さんやお父さん、お店のお客さんにも協力してもらったんだ」

 「ごめんね」と眉を下げるシン様を見ながら、私は頭の中が混乱していた。

「それじゃあラナさん達は……!」

「彼女達も王宮内の人もみんな協力者だよ。ちなみにラナは遠縁なんだ」

 シン様におかゆを持っていったカリーナさん、望まない結婚を希望するティアさん。シン様のことを愛しそうに大切そうに話すラナさん。みんな違ったの……?
 私はガックリとうなだれる。

「みんな本気ですごいなって思ってたのに……。それならルーチェ様は――」

 もう一つ気になったことを言いかけると、部屋の扉が大きな音を立てて開かれて。

「ボクも嘘だよー!」

 笑顔のルーチェ様が現れた。
 ポカンとする私に近づいてきたルーチェ様が悪戯な笑みで「ビックリした? ビックリした?」と私の顔を覗きこんでくる。
 体には包帯が巻かれているけれど顔色はよく元気そうだ。

「それじゃあシン様の命を狙っていたのも、模擬戦闘の時も嘘なんですか……?」

 お互いあんなに傷だらけになったのに――っ!
 体がカッと熱くなり、勢いよく息を吸った。

「信じられません! 嘘をつくために家族が傷つけ合うなんて! 本当に、本当に怖かった……!」

 傷ついた二人を見て兄弟が争うことに衝撃を受けた。
 弟だとしてもシン様を裏切ったルーチェ様は処刑されてしまうのかと思って怖かったのに……!