「とりあえず、命に別状はないよ」

「よか……っ、よかった……!」

 安心したらまた涙があふれてきて、力の抜けた体はまたソファーに沈んでいく。

「でも怪我の状態が悪くて気を失ってしまったんだ。数日は意識が戻らないかもしれない……」

 眉を下げた表情で告げるお父さんに、体の熱が下がっていくのを感じて自分で体を抱きしめる。

「そんなに悪いの……?」

「あれだけの怪我をされたし、その状態で力を使っていたからね。普通の人ならもっと重傷なんだよ」

「私のせいだ……。私がルーチェ様のことを言わなかったから――!」

 不敬罪に問われても伝えればよかった。
 そうしたらシン様は怪我をしなかったかもしれないのに……!
 思い出したお母さんの言葉を全然実行できていない。
 噛み締めた唇から血の味がしても構わない。シン様はもっともっと痛い思いをしているのだから。

「カルドーレ、自分を追いつめてはダメだ」

 横に座ったお父さんが私の肩に触れてくる。
 肩から伝わる人の温かさに力がゆるみ、ゆっくりとお父さんを見た。
 お父さんは肩に置いた手を動かして流れる涙を拭ってくれて。優しい瞳に少しだけ心が落ち着いた。

「ルーチェ様のことはワタシ達ではどうすることもできない。これは王族の方達の問題だ」

「でも、私はルーチェ様がシン様のことをよく思っていないのを知ってたんだよ……!」

「それでもだ。ワタシはお仕えする身だし、カルドーレは婚約者候補の希望者という曖昧な立場だから、ルーチェ様が裏切り者だなんて言えないだろう?」

 「仕方がないことなんだよ」と頭をなでてくれるお父さんに、落ち着くまでしばらく泣きながら抱きついていた。