――肉を斬る音と剣から持ち主の手が離れるのはほぼ同時だった。
恐怖に見開いたままだった私の瞳は一瞬でルーチェ様が後ろの壁に激しく叩きつけられるのを映す。
「な……っ」
誰がこぼしたか分からない声が聞こえる中、ルーチェ様の体が人形のようにズルズルと壁を伝って床に落ちていく。
「僕も甘く見られたものだね……」
シン様のほうを急いで見れば、血に染まりながらも右手をルーチェ様に向けて伸ばした状態でフラフラと立っていた。
左側のお腹のあたりの白がみるみる赤くなり、左腕からポタポタと伝う滴が床に円を作る。
「そ、いうところが、腹立つ、よ……あぁっ」
壁に背をあずけ、床に座りこんだ状態のルーチェ様が途切れ途切れに言葉を放つと、シン様は伸ばした右手を握った。
するとルーチェ様は苦しげに首もとを両手で押さえ、やがて意識を失ったようで倒れこんだ。
「弟と言えど裏切り者だ。――地下へ連れて行け」
シン様が低くそう命じればどこからか現れた数人の人がルーチェ様の体をロープで縛り、鍛練場から運び出して行く。
まるで作られた物語を見ているようで、目の前の光景が現実なんだと理解しながらも心では違うのではないかと思ってしまう。
お父さん達の手を借りて歩いていくシン様の姿を、私は泣きながら見ていることしかできなかった――。
***
「カルドーレ様……どうか泣き止んで下さい……」
部屋に戻ってメイさんにそうお願いされても、私の涙は次から次へと流れていた。
シン様が怪我をしたのは私のせいだ……。
私が早くに言わなかったから……!
そう思いがめぐり、めぐるほどに涙が止まらない。
傷だらけで赤く染まったシン様の姿が私を問うように頭から離れない。
何よりシン様が無事なのか一刻も早く知りたくて、両手を合わせてぎゅっと握りしめた。
日が暮れて運んできてくれた夕食はほとんど食べられず、ひたすらシン様の無事を祈り、心の中で謝罪を繰り返す。
涙がかれたのか出なくなってしまった頃、お父さんが部屋を訪ねてきた。
「お父さん! シン様は……!」
ソファーから立ち上がって早口で聞くとお父さんはゆっくりと頷く。

