「メイさんっ。模擬戦闘なのに真剣を使うんですか……!」
小声でメイさんに問えば笑顔で頷きが返ってくる。
「はい。時々実戦を想定して真剣で訓練されていますよ」
「――!」
心配になって二人の方を見ていれば、向こう側に立っているルーチェ様がこちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。
――どうしよう! ルーチェ様はこの場でシン様の命を狙っているかもしれない……!
ガタガタと震え出す私をあざ笑うかのように模擬戦闘は始まってしまった。
合図と共に二人は間合いをはかり、剣を交える。
――中止をお願いする?
理由を聞かれたら答えられない。
――ルーチェ様がシン様の命を狙っていると知らせる?
そんなことを言ったら私が不敬罪に問われるだけだ。
――真剣の使用を反対する?
普段から使われているなら多分聞き入れてもらえない。
どうしよう、どうしようとグルグル考えていると聞こえた一際高い音にハッとして中心にいる二人を見た。
ルーチェ様が上から押さえつけるように剣に体重をかけてシン様を圧している。
「……いつになく本気だね」
「兄さんこそもう息切らしちゃってどうしたの?」
「気のせいだ……!」
シン様が腕に力をこめて押し返し、弾くように剣を動かした。
シン様の剣先がかする前にルーチェ様は後ろに飛び退いて距離をとる。
「いいや気のせいじゃないね。すごい汗だよ? もしかして考えごとして寝不足とか?」
「――!」
シン様の動きが一瞬止まる。
その瞬間をルーチェ様は見逃さず一気に間をつめて剣を薙いだ。
「く……っ」
遅れをとったシン様の受け身は間に合わず、白い袖に赤がにじむ。
「無様だね。隙だらけだよ……!」
痛みに顔をしかめるシン様にたたみかけるよう、ルーチェ様はシン様が持つ剣を弾き飛ばしてしまった。
「前から気に入らなかったんだ。先に産まれたからってみーんなにもてはやされてさ」
「ルーチェ……っ……!」
何も持っていない状態のシン様を斬りつける様子にみんながざわめき出す。
大声、小声、悲鳴。たくさんの声の中でもルーチェ様は止まらない。
「あはははは! 蛇神様の後継者も形なしだね? でも安心して。兄さんの後はボクが継いであげるから――!」