そこに立っていたのは、ソレドによくきてくれる、短い黒髪に明るい笑顔が印象的な兄のような存在のミレさんだった。

「こんなとこで会うなんてな。元気にしてたか?」

「はい! おかげ様で元気です」

 思いもよらないことに嬉しくなってしまう。

「カルドーレさん、そちらの方は……?」

 目を丸くするラナさんに慌ててミレさんをお店のお客さんだと紹介。

「そうでしたか。私はラナと申します。カルドーレさんには共にシン様の婚約者候補の希望者としてお世話になっています」

 上品な仕草で挨拶をしたラナさんにミレさんもおじさんも目を見開いて驚いたような声をあげた。

「ソーレさんが言ってたのは本当だったんだな。新手の冗談かと思ってた」

 ミレさんが言うとおじさんはミレさんの肩を音がしそうな勢いでつかんだ。

「そうかそうか! ならこの月のペンダントはどーんと値引きしてやるよ! 見習い中のこいつの作ったものだしな!」

「これ買ってくれるのか! 親父がやっと商品として認めてくれたものなんだ」

 頬を赤くして「ありがとう」と笑うミレさんに何だかこちらも温かい気持ちになる。
 悩んだ結果、記念に買おうと決めて少しだけ安くしてもらって月のペンダントを購入した。
 「またな!」と手を振ってくれるミレさんと横で見送るおじさんに何度も頭を下げてお店を後にした。

「いい買い物ができましたね」

「――はい。嬉しいです」

 首にかけられて揺れる月はキラキラと優しく光って、シン様の髪とよく似ている気がした。


***


 出かけられて楽しい気分は帰りの馬車の中で一気に混乱へと変わった。
 疲れが出てしまったのかラナさんが高熱を出してしまって。
 急いで熱を少し下げて、馬車の窓から運転手さんに急ぐようにお願いした。
 運転手さんは詳しい説明をしなくても緊急事態と察してくれて馬を走らせる速度をあげた。
 シン様が乗った馬車も似たような速度で後をついてきてくれて、王宮の前で二台の馬車が停止する。

「何かあったのかい?」

 すぐに馬車を降りてきたシン様に急いで駆け寄った。

「ラナさんが熱を出してしまったんです!」

「分かった。僕が彼女を運ぶよ」

 シン様は馬車に入るとラナさんを横に抱くようにして降りてくる。
 ラナさんの頬は赤く息づかいが荒い。