「私は回復能力を未だに上手く使えないのですが、ルーチェ様でも治しきれないことがあるのでしょうか?」
「うーん、ボクでもというよりはみんなそうだと思うよ」
え……!
内心で叫んで目を大きく開く私を見て、ルーチェ様は背中に手をあてたままおかしそうに笑う。
手があたる場所は熱がある中でもじんわりとした温もりが体の中に伝わってくるのを感じた。
「もしかして知らなかった? どんなに回復能力が優れた人でも重い症状のものとかは一回じゃ治せないと思うよ。能力を長く使い続けることはできないし、対象の人の負担にならないとは限らないからね」
「トリステさんも同じだと思うよ」と言われて私は驚いた。お父さんや他のほとんどの人は早く完治する能力があると思っていたから。
「個人差はあるから、優れた人は回数を少なくできるけどね。あと、能力は万能じゃないから、逆にどんなに力を持っていても治しきれずに悪化してしまうこともあるよ」
それは知らなかった。今までずっと思いこんでいたし、考えてみればお父さんに詳しく聞いたこともないし、お母さんに聞いてみたこともない。
「うん、これくらいが限度かな。痛みはほとんどなくなったと思うけど起きてみてくれる?」
ルーチェ様の言葉に恐る恐る起きるために体を動かす。
息をしても感じていたのが嘘のように痛みが軽くなっている。
手を借りて立ちあがって少し歩いてみても支障はないみたいだ。
「うん。動けるくらいまではよくなったね。前側のほうの傷は早くに治しておいたから大丈夫だよ」
「ありがとうございます……!」
こんなにすぐに楽になるなんて感動した。裏を返せば今まで大きな怪我や病気がなかったからいいことなんだけどね。
「明日もう一回治療したら治ると思うけど無理はしないでね」
笑顔のルーチェ様に感謝の意味をこめて笑顔でもう一度お礼を伝える。
するとルーチェ様は私の手をひいてベッドに倒れさせ――覆い被さってきた。
背中に感じる微かな痛みと弾力、軋むスプリングの音に一瞬何が起きたのか分からなくて、笑顔を消したルーチェ様を見つめた。
「ルーチェ様……?」
「――本当キミって無防備だね」