セルペンテ国に生まれた人は何かしらの能力を持っている。お母さんは料理が得意な製造能力。お父さんは炎と光に回復能力。
私はお母さんの製造能力とお父さんの回復能力が遺伝したけれど、十六歳になった今でもいまいち使いこなせない。
料理は能力を使うより手料理のほうがずっとマシだし、回復能力は軽い怪我や病気は治せるけど、重いものは症状を軽くすることしかできない。
王子様の婚約者を希望する人はきっと綺麗だったり可愛いかったり、能力も優れているに違いないんだ。
――それなら腹をくくり、試験を受けて帰ってこよう。
「わかった。試験を受けてくる」
「素直でよろしい。荷物はあたしの部屋に作って置いてあるからね。忘れずに持って行くんだよ。――まあ、軽い気持ちで行っておいで。勝手に推薦しといてなんだけど、出会いはどこに転がっているか分からないもんさ。王様も王子様も悪いようにはしないだろうし」
「お母さん……」
髪を拭く作業を止めたお母さんは私のほうを向いて表情を和らげた。
う……。普段滅茶苦茶で強引なのに大事な時はお母さんの顔するなんてずるいよ。
感動して泣きそうになっていると、お母さんは徐に右手の親指と人差し指をくっつけて丸を作って動かした。嫌な予感に涙がひいていく。
「運よく婚約者に選ばれたら儲けもんだしね。旦那は王様の側で働き、娘は王子様の婚約者。これは店が繁盛するよ!」
声を大にして笑うお母さんに違う意味で泣きそうになる。そうだった。お母さんはこういう人だってことを感動のあまり忘れてたよ……。
「頑張りな!」と力強く背中を叩いてくるたくましいお母さんに、無言でぎこちなく頷くことしかできなかった。
***
翌日。太陽が真上にくる少し前に私は玄関を出て家の前に立っていた。
ワンピースのスカート部分が春風に時々揺られながら、ポカポカとした暖かさにウトウトしてくる。両手に持った旅行鞄が下がる度に隣から咳払いが聞こえて慌てて意識を保つ。
これから王宮に向かうのだからと頭を切りかえていると、遠くから馬の足音が聞こえてきた。小さな姿が段々と大きくなり、白い毛並みの馬が引く馬車が私達の前で停止した。

