嬉しい気持ちをそのままに言うとルーチェ様の笑みが穏やかなものに変わったように見え、シン様の笑顔と重なる。
 静かで穏やかなシン様と元気で明るいルーチェ様の相似点が知れたような気がした。
 その後はリタから降り、他の人がルーチェ様の近く、私から少し離れた場所で馬に乗っているのを眺めていた。
 すると鮮やかな色の髪を揺らしながらティアさんが馬に乗ったまま歩いてきたので、自然と私は上を向く。
 ティアさんはキツい眼差しでこちらを見た後にフッと笑った。

「あんた、シン様と仲良くなれないからってルーチェ様と仲良くしてんの?」

「そんな……っ」

「あたしとしては一人でも減れば楽だけど、ルーチェ様に言い寄っても何もないから」

 「ルーチェ様には婚約者がいるし、あんたなんかかないっこないよ」と単調に言うティアさんに私は否定の声をあげた。

「そんなこと考えてもいません……!」

「ふーん。じゃあその気がないならさっさと家に帰れば?」

 冷たい声色で放たれた言葉に返す言葉を見失った。
 辞退しようと考えているのに人から言われて動揺するなんておかしいよね……。

「何、泣けばすむと思ってんの? あたしそういう人嫌いだから」

 はっきり告げられた負の言葉に、目尻から涙があふれてしまった。――その瞬間。

「!」

 高く響きわたるリタの鳴き声にハッとする。
 急に激しく動き出したリタが柵を乗りこえ、こちら側で馬に乗っているティアさんのほうに向かって前足を高く蹴りあげた。
 ――危ない……!
 流れる涙をそのままに無我夢中でリタの前に立ちふさがった。リタと目が合っても蹴りあげた足の勢いは止まらなくて。

「――っ……!」

 反射的に向けた背中に衝撃を感じて地面に勢いよくぶつかる。

「ちょっ、しっかりしなさいよ……!」

 ティアさんの声を始め聞こえる音が遠くなっていき、力が抜けていく感覚に従って目を閉じた。