「こんなに優しい食事は久しぶりだってリィのことなでてくれたんだー」
可愛く笑うカリーナさんの言葉に私は立ちすくむ。
疑いたくない。けれどカリーナさんの言葉は、まるでカリーナさん自身がおかゆを作ってシン様へと持って行ったという意味にとらえられて胸が苦しい。
「あなたって世間知らず。リィ達はライバルなんだよ?」
「分かってる?」とたたみかけられてうつむいてしまう。
今まで憧れのような人はいても異性として人を好きになったことは多分ない。だから、こんな状況を経験したのは初めてだった。
混乱する頭に潤む視界。でも今ここで涙をこぼしたら何かに負けてしまうようで悔しい。
「!」
「なに……?」
涙をこらえていると馬の鳴き声が響いた。次いで馬の駆ける足音が聞こえ、顔をあげると奥のほうから一頭の馬が走ってくるのが見える。
「きゃ……っ」
近づいてくる馬の勢いにカリーナさんは柵から距離をとる。
対する私は向かってくる馬をその場で見ていた。もしかしたらリタかもしれない。そう期待しながら。
「危ないから離れて……!」
離れた所からルーチェ様の声が聞こえたと思った瞬間、馬は私の目の前まできてもう一鳴き。
「キャー!」と叫ぶカリーナさんの声を聞きながら私はじっと馬を見た。
すると――。
「――っ、くすぐったいよ、リタ?」
頬にすり寄る相手に名前を呼べば、答えるように鳴いてくれて。願い通り駆けてきたのはリタのようだった。
繰り返されるすり寄りに喜んでくれているのかなと感じ、浮かびそうになった涙は笑みに変わる。
「二人とも大丈夫……っ?」
「はい。大丈夫です」
「急にキミ達目がけて走って行くから驚いたよ。普段はおとなしいのに……」
駆けつけてくれたルーチェ様は首を傾げ、私の頬を舐めだした様子に「ああ」と納得したような声を出した。
「そっか。リタはキミのことを気に入ったんだね!」
「よかったらリタに乗ってみる?」と聞かれ、私は目を瞬かせた。
***
「わぁ……」
リタの背中に乗せてもらうと高くなった景色にドキドキする。
高さが違うと見える景色も普段とは違って見えてまわりをキョロキョロと見てしまって。
時々吹く風が肌に触れて心地いい。
「ふふ、気持ちいいでしょ?」
「はい! ありがとうございます」