「シン様がよくなられるならそれでいいんです――」
「私は家に帰るから」とは言い出せず口を閉じる。
背中に視線を感じながら洗いものを済ませていった。
カリーナさんとシン様が笑い合う姿が浮かんで寂しいような気持ちになったけど、ダンスの時に優しくしてもらって勘違いをしているんだと胸の中で自分に言い聞かせながら――。
***
翌日のお昼前、ルーチェ様が部屋へと訪ねてきた。
不思議に思いながらも前に見た表情が重なってどうしても構えてしまう。
それが伝わったのかルーチェ様は困ったように笑った。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。四人を連れて行きたい所があるだけだから」
そう言い終わるとルーチェ様は私の手をつかんで部屋の外へと連れ出した。
廊下に出るとラナさん、カリーナさん、ティアさんが揃っていて、私のほうを見ると歩き始める。
よく分からず歩みが止まる私をルーチェ様が促すように手を引いて再び歩くことになった。
王宮を出てどこに行くのだろうと思っていると、敷地内であるだろう場所で止まり、目の前の光景に私は気持ちが高ぶるのを感じた。
馬がたくさんいる……!
厩舎が建てられていて、その前に仕切られた柵の中に白馬が何頭もくつろいでいるみたい。
「兄さんがまだ本調子じゃないから今日はボクがついているよ。と言っても今日は王宮で飼われている馬に触れ合ってもらおうっていうだけなんだけどね」
話しながら柵に近づいて行ったルーチェ様は一頭の馬をなでる。すると馬はゆったりとルーチェ様に寄り添った。
「ほとんどのコがおとなしいけど優しく触ってあげてね」
みんなが馬に近づいて行く中で私は近くの馬から順に見ていくけれど、白馬ばかりなので正直どの馬がリタなのか分からない。
一頭ずつなでたら分かるかなと考えていると、近くにいたカリーナさんが馬に伸ばした手を戻して私のほうを向いた。
「昨日はありがとねぇ。あなたのおかげでシン様にほめられちゃった!」
「え……?」
カリーナさんの言葉の意味がよく分からない。食事を持って行き看病したからだろうか?
返す言葉を選んでいると、カリーナさんの瞳が弓なりに細められた。