「いい匂いがしますね」

「ありがとうございます。もう少しで完成しますよ」

 珍しそうに鍋の中の様子を見るメイさんを見ながら、料理担当の方からいただいた卵を器に割ってとき、鍋に流しいれる。軽く混ぜて塩で味つけし、細かめに刻んだネギを入れて完成。
 蓄力石の動きを止めて火を消して鍋にふたをした。

「お米にはこんな調理方法もあるんですね」

「お母さんに教えてもらったんです」

「それでは早速持って行きましょう!」

 笑顔のメイさんに頷いて、ふたと一組になっている器におかゆを移し終わると足音が近づいてきたので顔をあげた。
 すると食堂と調理場を繋ぐ入り口からカリーナさんが顔を出す。

「いい匂いがしたけど何作ってるの?」

「おかゆというお米を使ったものです」

 私が答えると「へぇー!」と目を輝かせたカリーナさんが近づいてきた。

「もしかしてシン様にあげるの?」

「はい。お出しする予定ですが……」

 頷きながら器にふたをしてトレイにのせると、カリーナさんが笑顔でトレイを持ちあげる。

「それじゃあリィがかわりに持っていってあげるね!」

「え……」

「こんな時間に手料理なんて疲れたでしょ? リィが届けてあげる」

 緑色の瞳がじっとこちらを見る。笑顔の消えた表情にカリーナさんが何を思っているのか分からなくて私は固まってしまう。
 やっぱり料理は能力を使ったほうがおいしいのかな……。
 もともと手料理に自信なんてないけれど、能力を使えないという事実を責められているようで胸が苦しくなる。

「カリーナ様……!」

「――メイさん」

 声をあげるメイさんに声をかけて首を横に振る。
 眉を下げた表情を浮かべるメイさんには申し訳ないけれど、とりあえずカリーナさんは持って行ってくれると言うのでお願いしたいと思う。お礼は後日改めて言おう。

「分かりました。それではお願いします」

「まかせて! この入れ物はリィが洗っておくから」

 もう一度「お願いします」と返すと、カリーナさんは「おやすみー!」と再び笑顔で調理場を去っていった。

「いいのですか? せっかくカルドーレ様が作られたのに……」

 眉を下げるメイさんを見てから私は使ったものを洗い始める。