あがっていく手に視線を向けると手はやがて止められて、前に立っている人にハッとする。
 後ろにまとめられた白銀の髪が光できらめいて、赤い瞳を細めているシン様がいた。

「泣かないで」

 目尻に浮かぶ涙を手袋ごしの親指で拭ってくれる。

「最後は君だよ、カルドーレさん」

 距離を縮めたシン様が私の手をとったままホールの真ん中へと歩いていく。
 歩みが止まると演奏が始まって、シン様はもう片方の手もとった。

「さあ笑って? 君のペースで始めよう――」

 促されて一歩動かせば、それに合わせてシン様が動いてくれる。

「あ……っ」

「大丈夫」

 たどたどしい足どりで足を踏みそうになるのに、その度にシン様がさり気なく足を動かして踊りが止まるのを防いでくれて。
 何度も繰り返していると名前を呼ばれ、顔をあげるとシン様がホッと息をついた。

「やっと顔をちゃんと見れた。せっかくお洒落をしているのに見れないのはもったいないな」

「そんな……っ」

 慣れない言葉に照れてしまう。

「ふふ、化粧をしていても頬が赤いのが分かるね」

「あ、あの……っ」

 恥ずかしさにまた泣きそうになると、「ごめん、困らせたね。――あと少しで曲が終わるから、もう少しだけ僕のほうを見ていて」と射抜くような瞳に捕らわれて。
 小さく聞こえる人の声やゆったりとした演奏を耳に入れながらも、踊り終わるまで熱に浮かされたような感覚がした――。