「そろそろいい時間みたいだし、ボクは他の子とも踊ったら仕事に戻るから、またね」
手を大きく振るルーチェ様に頭を下げて見送る。
カリーナさんと楽しそうに踊る姿を見ながら、私は小さく息を吐き出した。
***
夕食を食堂でいただいて休憩を挟んだ後、着替えた私達はダンスホールへときていた。
照明に照らされた室内は昼間とは違う雰囲気が漂い、知らない場所にいるような気持ちになる。
また、会ったことのないメイドさんや他にも王宮で働いていると思われる人などたくさんの人が集まっていた。メイさんはメイドさんが集まっている場所にいて時々こちらへ笑顔を向けてくれる。
その中で私は壁に寄りかかって一息。視線を落とせば自分の瞳より少し濃い色のドレスが目に入り、動けば揺れるイヤリングの存在を強く感じる。
メイさんによって綺麗に整えられた髪も薄く施されたお化粧も、どこか他人ごとのような気さえしてしまって。
ぼんやりしていると、青いドレスを着たラナさんが人の間を縫って私のほうへ歩いてきた。
長い黒髪は高い位置で結われドレスと同じようにとても似合っている。
「いよいよ本番ですけれど、調子はいかがですか?」
「不安だらけです……」
私が曖昧に笑うとラナさんは優しく笑って私を抱きしめてくれた。
「大丈夫です。精一杯踊れば、きっとシン様に思いは届きますから」
「お互い頑張りましょうね」と言われて頷くので精一杯だった。
お母さんの推薦で、いずれ辞退するつもりの私はシン様と踊っていいのだろうか。そのことが心にのしかかる。
もやもやとした気持ちを抱えながら、踊り始めたシン様とティアさんを見つめた。
――ティアさんは深紅のドレスに身を包み、凜とした雰囲気を漂わせながら踊り、カリーナさんは淡い黄色のフワフワとしたドレスで、終始可愛らしい印象だった。
ラナさんは静かに上品に踊りきり、たくさんの拍手に包まれて。
シン様と踊る姿は三人ともとても絵になっていて足がすくんでいく。
やっぱり私には最初から場違いだったんだ……。
手をギュッと握って今にも流れそうな涙を我慢する。
すると握った手を白い手袋に包まれている手に持ちあげられた。