王子様が自ら細かく指摘して教えてくれるのはとてもありがたいことだと思う。でも慣れない私には逆効果な気がするんだけど……。
 お父さんとの練習よりも修正の仕方が半端じゃなくて。手を引かれ何だか操り人形になったみたいだった。

「手はもっとこう! 近づかないと危ないよ!」

「わ……!」

 バランスを崩しかけてしまい、倒れると思った瞬間手を強く引かれた。
 固い胸元に受け止められて顔に熱が集中していく。

「あれ? このくらいで照れるんだ――」

「!」

 「妬けちゃうね」と耳元で低く囁かれた言葉に体が強張る。
 恐る恐る胸元から離した顔を上げれば、笑みを消し、暗い目をしたルーチェ様と視線が合ってぞくりとする。
 明るい様子から一転底知れない様子に私は運動からではない汗が流れるのを感じた。

「……最初に生まれたからって特別扱いされて。こうやって婚約者候補の希望者を集めたりしてさ。――本当に腹が立つ」

 演奏の中、他の人には聞こえないくらいの声量で絞り出すような言葉に私は声を失った。
 今までは第一王子の方が順調に次期国王となっているのだろうと思っていたし、学校でもそう習っていた。
 けれど、今目の前で私の手を痛いほど握り表情を歪めるルーチェ様の様子に、実は詳しいことは何も知らないのではないかと思ってしまう。

「あの……」

「――なんてね! 冗談だよ。驚いた?」

 何て返したらいいのか戸惑っていると、ルーチェ様は再び明るい笑顔を浮かべた。

「兄さんが女の子達とダンスをするって言うから羨ましくなっちゃって!」

 「ボク、演技上手いでしょ?」とさっきまでのことが嘘のように笑うので、張りつめたものが切れて涙がこぼれてしまった。
 よしよしと頭をなでてくれる手は温かくて、今更ながらシン様との体温の違いに気づく。
 「ごめんねー」と言われて「こちらこそ申し訳ございません……」と謝りながらも、私の記憶には表情を歪めたルーチェ様の姿が残ってしまった。
 それから一度通して踊ってみても怪しいところだらけに終わってしまい、「本番は兄さんが相手だし足を踏んでも大丈夫! 気を楽にすればいいよ」と不安になるアドバイスをもらった。