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「あれ?」

 夜、店を閉めた後、明日は休日と言うことで私はリビングでゆっくりしていた。
 もっとも調理は母がするので、接客担当の私が夜にすることは早寝をする、ぐらいの必要事項なのだけど。
 テーブルの上に置かれている一枚の手紙に気づき私は文章を読んでいく。

 ――ソーレ様

 この度は第一王子シンの婚約者希望募集へ、カルドーレお嬢様のご推薦、誠にありがとうございます。

 早速ではありますが、明日の太陽が真上の時刻にお迎えにあがりますので、ご準備のほどをよろしくお願いいたします。

 なお、軽い面談の後にすぐに住みこみで試験が始まりますので、しばらくの間お嬢様をお預かりしますことをご了承下さい。

 王、王子を始め心よりお待ちしています。

――王族一同より


 な、何これ……!
 読み終えた手紙の内容に、私は手紙を持つ手を震わせながらそろそろ風呂上がりだろう母のもとに走った。

「お母さん!」

 脱衣所の扉を開ければ、パジャマに身を包んだお母さんがつり目がちな目を丸くして私を映す。
 私が持つ手紙に気づいた途端意地悪な笑顔を浮かべ、タオルで髪を拭き始めた。

「ああ、気づいたのかい?」

「気づいたのってどういうことなの? 推薦したなんて聞いてないよ……っ」

 昼間におじさんと話してた時に何も言ってなかったのに。
 王宮はクオーレ地区の中心にあるから、今日の早い時間に送られていればここには当日中に届く。リビングのテーブルにあったということは今日届いたもののはず。

「言ったら駄々をこねるからね。行くことは決まってしまったから逃げられないよ?」

 横目で私を見ながら鏡に向かう母の姿が歪んでいく。次々にあふれてくる涙をそのままに手紙を握りしめながら考えを巡らせた。
 ――そうだ。私のダメダメさをアピールしたら、シン様は呆れて早々に家に帰してくれるに違いない。
 こんな涙もろくて、学校を卒業して未だに能力を使いこなせない人なんて候補から外れるはず。