ラナさん、カリーナさん、ティアさんも本番に向けて綺麗なドレスを身に纏い、だけど私とは違って優雅にステップを踏んでいる。
 演奏される音楽に合わせて、パートナーとの息が合っているのだろうと詳しくない私にも感じられた。
 「カルもみんなに負けていられないね」と聞こえる励ましは、ますます私を落ちこませるばかりで目尻には涙が浮かんでくる。
 思わずうつむくと、目の前に誰かの足元が見えて影になった。

「うつむいてどうしたの?」

 聞きなれない声につられるように顔をあげると、薄紫の髪に青色のつり目を持った私より少し年上くらいの男の人が笑顔で立っていた。

「うわぁ! ルーチェ様だー!」

 大きな声に視線を向ければ、カリーナさんが踊るのを止めてこちらに手を振っていて、目の前にいる人は慣れたように振り返している。

「兄さんのかわりに様子を見にきただけだから練習を続けてね」

 ラナさんやティアさんも踊りを止めて演奏も止まっていたため、男の人はそう言って視線を動かした。間もなく音楽が響き、三人の踊りは再開される。
 私は踊りを見ながら、未だ近くにいる人のことを考える。ルーチェと言う名前はどこかで聞いたことがあるような――。

「あ……っ」

 大声をあげそうになって慌てて口に手をあて声を閉じこめる。私の驚いた様子に、男の人は悪戯が成功した子供のように笑った。

「初めまして。ボクは第二王子のルーチェです。よろしくね」

 差し出された右手に、名乗り返しながら私は震える右手を差し出したのだった。


***


「うーん、少しはよくなったかな? もう一回いくよ!」

 シン様とは違う、太陽みたいな笑顔で放つ言葉は刃のように私の心へ刺さる。
 緊張やら恥ずかしさやら申し訳なさやらで頭がグルグルしている私に構わず、ルーチェ様は練習を再開。
 ……私は何でルーチェ様と練習しているんだろう……?

「ここでステップ、あ、反対の足だよ! 今度はこっちこっち!」

 ルーチェ様はひらめいたように「ボクが教えてあげる!」と言い出し、気遣わしげなお父さんを笑みで納得させてしまった。「ルーチェ様にしっかり教わるんだよ」と父は嬉しそうにダンスホールを去って行く。