布を大雑把に袋につめて部屋の隅に押しやり、メイさんは答案用紙を急いで持って足早に部屋を出て行った。


***


「カルドーレ様ー。お気持ちだけで充分ですから……」

 昼食後、縫い物を再開したメイさんを最初は読書をしながら眺めていた。
 でもやっぱり気になった私はメイさんの近くに置いてあった針と糸を拝借して雑巾作りを開始。すると一つ完成するあたりでメイさんが気づいた。
 あと一つだけ、あと一つだけ、を繰り返して十枚縫い終わった時にメイさんに困り果てたような顔をされてしまい私も困った。

「迷惑でしたか……?」

「いいえ! 迷惑など思っていません。ですがもう充分お手伝いしていただきましたから!」

 そう言ってメイさんは私の近くから布を遠ざける。
 まだ手伝いたかったけど無理を言ったらもっと困らせると思ったので諦めることにした。

「分かりました。後はよろしくお願いします」

「おまかせ下さい!」

 メイさんはホッとした表情の後に満面の笑みを浮かべたので私も笑い返して。
 メイさんが雑巾を作り終えるまで私は読書をしながら時間を過ごした。


***


 夜、報告に行ったメイさんを見送り、時間があいたので待っている間に入浴をすませる。
 そしてお風呂からあがり、部屋を訪れてきた人に昨日のラナさん以上にビックリして涙が出そうになった。

「夜遅くにごめんね?」

 扉を開けるとラフな格好をしたシン様が立っていた。
 服装が違うだけでまた異なる印象を受けるけど、それでも穏やかな雰囲気は変わらない。
 濡れた髪を拭こうとしたタオルを持ったまま動きが一瞬止まってしまう。
 「少し時間いいかな?」と聞かれて慌てて部屋へとお通しした。

「今日行った筆記の答案用紙を持ってきたんだ」

 ソファーに座ったシン様が優しい声で言った後、私の名前が書かれた答案用紙の束を渡してくれる。一枚目の紙には「よくできています」と赤いインクで文字が書かれていた。

「問題はほとんど正解していたよ。歴史は得意なのかな?」

「得意というほどではありません……。ですが、歴史の授業は好きでした。自分が住む国のことを色々と知れて楽しかったです」

 テストが返ってきてお母さんに見せると、「歴史の点数がいいのは喜ばしいけど、能力をもっと鍛えるんだよ!」とよく言われていた。