「嬉しいこと言ってくれるなぁ。――と、父で思い出したがカルちゃんは親父さんから聞いてるか? 第一の王子様が婚約者候補を募集してるって話」
「第一と言うことはシン様、ですか?」
第一王子のシン様は白銀の長い髪に赤い宝石のような瞳を持った見目麗しいお方らしい。
らしいと言うのは直接見た感想ではなく、父から聞いた話のため。穏やかで優しく、父親である国王様と同じように国民思いだとか。
「ああ。全地区に通達がいっているらしい。カルちゃんも希望してみたらどうだ?」
「そんな! 私が王子様の婚約者希望をするなんてとんでもないです」
「そんなこと言ってたら行き遅れるだろう? この泣き虫の寝坊助が!」
話しているとテーブルに音をたてて皿が置かれる。焼かれた豚肉が野菜と共に香ばしい湯気を漂わせていた。
タイミングの悪さにツヤツヤのご飯が今は憎く見えてしまって。
横を向けば赤茶色の髪を頭の後ろで高い位置に結んでいる店長――母が笑っていて私は気まずくなる。
「今朝は寝坊してたもんだから拳骨を落としてやったのさ」
「お母さん……!」
何も店で言わなくてもいいのに!
恥ずかしさで私は顔が熱くなり視界が滲み出す。
せっかく今日はお昼時に泣かないですむかもと思ったのに。お母さんが私の顔を見て意地悪そうに笑っているからよけいに悔しい。
「まったく。十六にもなって泣き虫に寝坊助じゃあ嫁の貰い手なんて見つかりゃしないよ」
「まあまあ、ソーレさん。カルちゃんは涙もろい質なんだ。世界は広いんだから、どこかにそんなところも受け止めてくれるいい男がいるさ」
「そうかねぇ……」
信じられない、と言った表情の母に見られて悔しい私は服の袖で乱暴に目尻を拭い、涙を流さないことをせめてもの反抗としたのだった。