「眠気覚ましに紅茶でも飲みながら話をしようか」
「紅茶は大丈夫?」と首を傾げるシン様に私はコクリと頷いた。
***
「おいしい……」
シン様が直々に淹れて下さった紅茶は、一口飲めばいい香りが広がって喉を通っていく。
朝晩はまだ肌寒いので温かい飲み物は嬉しく感じる。
「それはよかった。自分で淹れるのは久しぶりなんだ」
眉を下げて困ったように笑う相手に私は内心驚いた。
製造能力を使うにしても使わないにしても、茶葉を蒸らす時間を調節したり、お湯の温度を考えたり、淹れる人によって香りや味が違ってしまう。私は能力では全然上手くできなくて、手作業でお母さんからなんとか及第点をもらえるくらいなのに。
王族の方は何でもできちゃうのかな……。
「貴重なものをありがとうございます」
「こんなものでよければいつでもご馳走するよ? ――そろそろ君の話を聞こうか」
カップをソーサーに置いたシン様が私のほうを見たので、こちらもカップをソーサーに戻して頷いた。
手で顎に触れて考える様子で「何から聞こうかな……」と小声で言われたのでじっと待つ。
大きな窓から入る太陽の光が白銀の髪を照らしてキラキラしてる。目が宝石なら髪は月や星みたいだなぁと思っていたら、内容が決まったのか顎から手を離してこちらを見ていた。
「まずはカルドーレさんの好きなものを聞きたいな」
「好きなもの、ですか?」
「ああ。食べ物でも趣味でも何でもかまわないよ」
「そうですね……。食べ物は母が作る料理なら何でも好きです」
やっぱり私にとってはお母さんのご飯が一番おいしい。
小さい時は嫌いなものがあったけど、お母さんは嫌いなものも食べられるように上手に料理に入れてくれていた。そのおかげで今は嫌いな食べ物はないから。
「お母さんの料理か……。きっといつもカルドーレさんのことを思って作ってくれてるんだろうね……」
寂しそうな笑顔に変わったシン様に私はハッとした。
シン様は幼い頃にお母様――フィオン様を亡くしているんだった……!
どうしよう、何て無神経なことを――。
謝りたいけど何て言っていいのか分からない。頭の中で考えるほどに視界が歪んでいく。
両手を膝の上で強く握っても止まってはくれず、ワンピースに染みが広がっていきますます言葉が出てこない。