――それからが早かった。
 身支度から朝食までメイさんのつき添いのもと、至れり尽くせり状態に気持ちが追いつかないまま終わってしまう。
 そして今は面談を行う場所として客室の前に案内されていた。

「こちらが面談場所になります。わたしはここでお待ちしていますので頑張って下さいね!」

 ブレない笑顔を羨ましいと思いながら一度だけ深呼吸。
 ――そして覚悟を決めて扉をノックする。中から声が聞こえたので私は「失礼します」と声を出し、扉を開けて中へと足を進めた。


***


 泊まっている部屋よりも更に豪華な室内に一瞬呆けてしまったけれど、ソファーに座る人の姿に背筋が伸びる。
 白銀の髪を後ろで一つに結び、宝石のような赤い瞳を持つ男性が微笑んでいた。

「君がカルドーレさんだね? トリステさんから話はよく聞いているよ」

 ……どうしよう。
 お父さんから綺麗な方だと聞いていたけど真っ直ぐ顔を見ることができない。
 お母さんならきっと笑顔で「王子様、あんたいい男だね!」なんて返すに違いないけれど、私は年の近い男の人と会う機会自体が少ないから何を話したらいいのか分からない。
 お母さんの教えもどこかに吹き飛んだみたいに口から出てこなかった。

「あ、あの……」

 立ったまま口から思うように言葉が出ない私を瞳に映したシン様は、ゆるりと穏やかな笑みを浮かべる。

「――まずは座ってほしいな。少し話をしたいだけだから、ね?」

 細められた瞳に見られた私は緊張でドキドキしながら、何とかシン様の向かい側にあるソファーへと腰を下ろした。
 ――うわ、ベッドがふかふかだったけど、このソファーもすごく座り心地がいい。
 感触に感動しているとクスリと笑い声が聞こえてハッと我に返る。

「もっ、申し訳ございません! ご挨拶もできずに……っ」

 勢いよくソファーから立ち上がり、「カルドーレと申します!」とそれだけを何とか言って頭を深く下げる。

「ふふ、僕はシンです。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします……っ」

 緊張で顔が熱いし泣きそう……!
 グッと力を入れて流れるのを必死に我慢する。会っていきなり泣いたりなんかしてご迷惑をかけられない。
 再び促されてソファーに腰をかければ、シン様がテーブルに置かれていたティーセットを手に取った。