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それから精神的に大変だった。
廊下で会う人会う人に微笑ましそうに見られて、時には「おめでとうございます」なんて言われるから一日に何度も泣いたり泣きそうになったりしてしまって。
その度にメイさんがかいがいしく涙をハンカチで拭いてくれるから申し訳ないやら嬉しいやら。
数日経って耐えられなくなった私はシン様の執務室に逃げこんだ。
今日もまた朝食後に向かっている。
執務室の扉を叩いて声が聞こえたので、「失礼します」と言って静かに開けて入る。
執務机の前ではなく、ソファーに座っていたシン様が笑顔で迎えてくれた。
「おはよう」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
よろしくというのは部屋にいさせてもらうからという意味で、シン様にも通じたのか少し困ったような笑みを向けられた。
「僕は仕事が捗るからかまわないけれど、カリーナやメイが寂しがったりしていないかい?」
シン様の横をポンポンと叩かれ、促されるままに座るとそう聞かれて困ってしまう。
後から知ったのだけど、執務室には王族の方やお父さんみたいに国務に関わる人以外は部屋の主に拒否をされて無理に入室すると罪に問われることがあるらしい。
メイドさんは定期的に飲み物を運んできたりご飯を運んできたりするから少し例外ではあるそうだけど。
――それを知った後、過去でシン様の執務室をあちこち探し回ったことはとても失礼なことだったと分かり、どうしようと顔色をなくした私だった。けれど、私がシン様を探して歩き回るだろうことはルニコ様の予想の内だったらしく、私に製造能力があることにも気づいていたそうで、ルニコ様ってすごいんだなとしみじみ思ってしまった――。
私があまりに隠れるからか、執務室を訪ねてくるリィちゃん達をシン様がやんわり断ってくれていてどちらにも申し訳なく思っている。
「色々な話をしたりお茶に誘ってくれたりするのはとても嬉しいです。でも他の人の目が気になってしまって……」
「僕も未だにチラチラ見られるから、カルはもっと見られているだろうね」
「はい……」
私が頷くとふとシン様の表情が暗くなったような気がして首を傾げる。
シン様は手元にあった書類をテーブルに置き、私の左手をとった。
「僕と婚約したことを後悔していないかい?」
「え……」

