「ね?」と笑いかけられて私は言葉をつまらせる。
赤い目が明かりの下でキラキラして優しく細められて。そんな表情を向けられるのはお父さんやお母さん、小さいときから知り合いの人以外ではシン様が初めてで。
恥ずかしくてくすぐったくて、胸が苦しくなるけど悲しい気持ちじゃなくて。
私はシン様の服の袖をつかみ、小さな声で頷いた。
それから袖をつかむ手をそっと外されたと思う間もなく、シン様の両手が首の後ろにまわされる。
「じっとしていて」と言われるままにおとなしくしていると、シャラ、と音が聞こえて指輪を通していたチェーンが外されたことに気づいた。
指輪はシン様の右手に持たれ、チェーンは涼しげな音をたてて足元に落ちていく。
落ちる様子を追うと、冷たくて大きな左手が私の右頬にそえられて上を向くように促される。
見上げた先には笑みを消し、真っ直ぐな眼差しを向けるシン様がいた。
「――国王の前で今ここに誓うよ。どんなことがあっても僕が君を守る。たとえ離れた場所にいたとしても心は常に君を思っているから」
「シン様……」
「君に辛い思いをさせるかもしれない。大変な思いをさせるかもしれない。それでも僕はもう君以外の人を考えられないんだ……。僕の隣に君がいる、それだけで僕の力になるから」
視界が歪む私の目に、私の左手を同じく左手でつかんで高く持つシン様が映る。
「カルドーレが大好きだよ。どうか僕の正式な婚約者になって下さい」
「シン様……っ」
ボロボロと涙がこぼれ出した私を見るシン様が眉を下げて首を傾げた。
「ダメ、かな?」
残念そうに言うシン様に私はブンブンと首を横に振る。
王子様の婚約者になる、そのことに不安がないわけじゃない。私なんかがって今も思ってる。
けれど、アガタ様と婚約されたと聞いたことが悲しくて。ジーア国に連れて行かれて離れて気がついた。私はシン様が好きなんだって。
だから、シン様の気持ちを伝えられて涙が出るほど嬉しい。
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします……っ」
泣きながら笑みを浮かべると、シン様が顔を近づけて唇で涙を拭ってくれて。
「ありがとう。こちらこそよろしくね」
顔を離して優しい笑顔を浮かべたシン様が、私の左手薬指にルビーにはさまれたローズクォーツが輝く指輪をそっとはめてくれた。
そしてシン様の顔が近づいてきて――。
「ウォッホン」