「――帰ってきたか」

 幾分か目尻にシワを持つルニコ様が笑みを浮かべて手招きをする。

「あちらでは何日も過ぎていたが、こちらでは半日も経っていないとは不思議なものだな」

 おかしそうに笑い声をあげるルニコ様を見て、起こったことは確かに現実なんだなと内心つぶやく。

「僕は幼い頃、ジーア国は後継ぎが不在になったことにより、セルペンテ国王の保護のもとにあるとしか教えられていません。今の学校の教科書にはジーア国の名前すらのっていませんよね?」

 眉を寄せるシン様を見ても動じることなくルニコ様は笑みを崩さない。

「お前に教えたことも教科書のことも私がそうするようにしたんだ。お前達がやってきた時代までのジーア国についてはジーアの民の言い伝えでしか残っていない。人に伝われば伝わるほど真実は見えにくくなることもある。今や真実を知る者は私とお前達を含めてそう多くはないだろう……」

 考えてみればジーア国については学校で習っていない。
 教科書にあったとすれば、セルペンテ国の近くには海をはさんでいくつもの国があるという記述だけ。
 ルニコ様はそれきり口を閉ざしてしまったので、どういう考えでルニコ様がそうされたのかは分からない。
 けれど、シン様もそれ以上ルニコ様に問うことをしないようで、私は聞きたい思いを飲みこんだ。

「しかし、私にとっては長かった。何年待っても訪れない出会いに気が遠くなったぞ」

 額に手をあてて大きく困ったような表情をするルニコ様を見て少しだけ笑みがこぼれてしまう。
 年数が経過したからか過去にとんで初対面ではないからか。過去のルニコ様よりも話しやすい印象を受ける。

「それは僕達に言われても困ります。過去の父さんは年代も自分の年齢も教えてくれませんでしたし、未来の詳しいことを話して未来が変わっては困りますから」

「それもそうだ。シンが違う娘と出会っていたら私がカルドーレを嫁にもらったかもしれぬしな!」

「父さん……!」

 はははっ、と声をあげて笑うルニコ様にシン様はムッと拗ねたような表情をした。
 会って間もない時は優しい大人の男の人だと思ってた。
 けれどルニコ様の前だと親子だからか、いつもより自分と年が近いように感じられてそれも嬉しいと思う。

「見苦しい男は嫌われるぞ」

「かまいませんよ。カルはどんな時も側にいてくれると約束してくれましたから」