「この首飾りは代々次期国王候補の王子に試練を与え、試練を乗りこえ王になった者の望みを一つ叶えてくれる」
ルニコ様の言葉に思わず首を傾げる。
今回のことが試練なのは分かるけれど、シン様はまだ国王様にはなっていない。
それなら帰れないのでは……?
シン様もそう思ったようで、ルニコ様に詰め寄った。
「話が違います。あなたは帰す方法があるとおっしゃいましたよね?」
「そう怖い顔をするな。この首飾りで確かに帰してやれる。――私の望みとして」
「え……?」
私とシン様の声が重なり、二人で顔を見合わせる。
私達を帰したらルニコ様の望みを叶えられなくなってしまうのでは――。
「そんな話聞いていません! たった一度しか使えない力を使うだなんて……っ」
シン様が眉を下げた表情でルニコ様に言い寄った。
けれど、ルニコ様はつりがちな目を細めて穏やかな表情を浮かべていて、シン様は言葉をつまらせる。
ルニコ様は空いていた手を伸ばし、シン様の頭を数回ゆっくりとなでた。
まるで小さい子供によしよしとなでてあげているようで見ていた私は胸がギュッとなる。
「泣きそうな顔をするな。お前は私の息子で未来のセルペンテ国王になるのだろう? そのための投資と思えば安いものだ」
「父さん……っ」
シン様が肩を震わせ、赤い目から涙をポロポロとこぼしていく。
その様子が幼く見えてしまい、私ももらい泣きしてしまう。
私へと視線を移したルニコ様は仕方ないといったようにフッと笑って手招きをする。
促されて近づくと、シン様と二人で力強い腕に抱きしめられた。
「未来の息子達はそろって泣き虫だな。――だがそれも悪くはない」
「二人に会える日がくるのを心待ちにしている」と言われ、私とシン様は声を震わせながらも「はい……っ」と大きな声で答えた。
――その後、ルニコ様の言葉により首飾りのルビーがまばゆい輝きを放ち、いよいよ別れの時を迎える。
「ルニコ様、お世話になりました……!」
「今回のことはきっと忘れません」
「私も些細なことであっても忘れぬよう努力しよう。――さあ、同時に首飾りのルビーに触れてくれ」
私とシン様は視線を合わせて一緒にルビーに手を近づける。
輝くルビーに触れたと思った瞬間、激しい光に飲みこまれていった――。