苦しむシン様を前にして何もできない私。
 せめて側にいることを伝えたい。そう思った私は拳を作っているシン様の左手を包む。
 指まで鱗に覆われて肌の感触とは違ったけれど、私の体温が伝わるようにとギュッと握った。
 すると、体をピクリと動かしたシン様がうっすらと開いた目で私のほうを見る。

「カル……?」

「シン様。私はずっと側にいます。――どんなことがあっても、大好きなシン様の側にいさせて下さい」

「カル……!」

 目を見開いたシン様に私は涙を流しながら笑みを浮かべる。
 たとえここで殺されてしまうとしても、最期の時までシン様の側にいたいから――。

「僕も大好きだよ」

 微笑み返してくれたシン様は空いた私の手を取って立ち上がる。
 そして私達を無表情で見ていた術者を鋭く見返した。

「最期の別れはできたか? 私も死を前にした恋人の時間を待てぬほど非情ではないわ」

 イライラした様子のジーア国王様を気にせず、術者はフン、と鼻で笑う。
 そんな術者を見ながら、シン様はこめかみに汗を伝わせながらもゆったりと笑みを浮かべた。

「ありがとう。待ってくれたおかけで僕達は明日を迎えられそうだ」

「――何だと……?」

 訝しむ様子の術者にシン様は右手で異能封じの石を指差す。
 すると丸い石にはヒビが入り――二つに割れた。

「な……!」

「あなたは強い力を持つ者にほど効果があると言いましたね。――言いかえれば強い力を抑えるほど石には負担がかかる。そしてどんなものにも限界はあるものです。その石のように」

「こしゃくな……! こんな石がなくとも息の根を止めてやる――!」

 怒りをあらわにした術者の両手には禍々しい光の球が現れ、私はシン様を見上げた。
 するとシン様は私を穏やかな表情で見ていて顔を近づけてくる。

「君の力を借りるよ」

「え……?」

 息を感じるまで近づいてきたと思ったら目尻に柔らかい感触を感じて。

「死ねぇ――――!」

 飛びかかってくる術者にシン様が左手を素早く向けた。

「迷いし者に導きを――――」

 二つの光が激しくぶつかり合うまぶしさに目を閉じてしまう。
 耳をつんざくような叫びが辺りに響きわたり、やがて静けさが戻っていく。
 シン様に名前を呼ばれて目を開けると床には術者が倒れこんでいた。