「それはそちらの術者がセルペンテ国王が訪問の際に幻術をかけてごまかしていたからでしょう。――そう。何代も前から」

「え……?」

 シン様の言葉に私は術者を見た。
 国王が何代も変わっても生きているなんて信じられない。
 術者は肩を震わせ、やがて場に不釣り合いなほどに笑い出す。

「――さよう。私は人であって人ではない。枯れたようになってもなお私は生きている! まさしく神の血が流れているのだ……!」

 外套の帽子を勢いよく外した術者の姿にみんなが息を飲んだ。
 老人といえる容姿をかけ離れたそれは、まるで死人が立っているようなもの。しかし赤い目はギラギラと鈍い輝きを放ち、術者が生きている証になっていた。

「あなたは王族の血を引き、極めてまれなことに恐らく蛇神様の血が濃く受け継がれてしまったのでしょう。しかし直系ではないあなたはバランスを保てず、死することもできず今を生きている……」

「私は力を使うのが楽しくて仕方ない。私が力を使えば王族は栄える。利害の一致なのだ若いのよ」

 シン様は術者に言葉を返さず、ジーア国王様を見た。

「今までのセルペンテ国王もジーア国の違和感には気づいていました。長年にわたって少しずつ国のほころびを調べ、現セルペンテ国王は賭に出た。あなたの娘であるアガタ姫を僕の婚約者として招いてね」

「な……!」

 そこで初めてジーア国王様は大きく表情を変えたけれどシン様の言葉は続く。

「あなたはセルペンテ国も自分の手中におさめたくなりきっかけを探していましたね? そこに湧いて出た僕の存在を利用しない手はないはずです」

「アガタは良縁と思っただけだ。それ以外何もない」

「そうでしょうか? 近頃国内を荒らして捕らえた者達も、アガタ姫本人からも、セルペンテ国を乗っ取る企てやジーア国の内情について全てを話していただいたのですが……」

「お父様!」

 シン様の言葉を遮るように甲高い声が響きわたる。
 後ろ手にされて動きを制限されているアガタ様が整った顔を涙で濡らして現れた。