私は靴を脱ぎ捨てて出口へと走り出した。

「待て! ――くそっ、蛇ごときが邪魔をするな……!」

 男性の制止に構わず私は走る。
 驚いたことに部屋にはたくさんの蛇がいたけれど、まるで道を示してくれるように一本道を開けてくれた。
 息を切らして扉にたどり着くと一匹の白蛇がまるで「行こう」と言っているようにシャーと鳴いて開いていた隙間をくぐり抜けて行く。
 その蛇はシロに似ていて、私はためらわずに部屋を飛び出した。

「はぁっ、はぁ……っ」

 夜を迎えた王宮内をひたすら走り続ける。
 建物の中には明かりがほとんどつけられていなくて、窓から入る月明かりだけを頼りにして足を動かして。
 白蛇はいつの間にかいなくなり、また、体のあちこちがまだ痛むけど止まるわけにはいかないんだ。
 階段はのぼっていないから一階であることは間違いないはず。
 けれど広すぎて走っても走っても外への出口が見つからない。
 後ろから追ってくる足音と叫ぶような声がだんだん増えてきてこのままじゃ捕まってしまう――。
 なんとか外へとつながる扉を見つけ出したけど今度は扉が開かない……!

「――あ……っ!」

 必死に取っ手を引っ張っていると肩を強くつかまれて後ろへバランスを崩してしまう。

「やっと、捕まえたぜ……?」

「いや……っ!」

 間近で聞こえる声に体が震えて視界がにじんでくる。
 私は首にかけている指輪を握りしめた。
 ――シン様に会いたい――!
 涙が頬を伝って落ちる。
 男の人に腕をつかまれて通った道を戻るよう引っ張られる。
 今度こそもうダメだと思ったその時――。
 大きな音をたてて扉が勢いよく開かれた。

「僕の婚約者を返してもらおうか」

 驚いて振り返った私の耳に、会いたくてたまらなかった人の声が聞こえた。
 シン様の登場にざわめきながら、人々が武器を構えて臨戦態勢をとる。

「この娘はジーア国王様のもんだ! 渡すわけがないだろう!」

 ギリッとつかむ手に力をこめられて痛みに顔が歪む。
 するとこちらを見ていたシン様のまとう空気が揺らめいた気がした。
 開け放たれた広い入り口から月の薄明かりが入りこみ、シン様の姿をうっすらと照らす。
 左右で異なる姿にざわめく周囲の中で私は今夜が満月だということに気がついた。