「国王様、娘を連れてまいりました」
膝をついて話す男性に私はどうしたらいいのか分からず立ちつくす。
ここは私も身を屈めたほうがいいのだろうか。
けれど気を失っている間にジーア国の強制労働場に運ばれたのに、ペコペコと頭を下げるのも違うような気がして迷ってしまう。
「頭を下げろ」と小声で男性に鋭い視線と共に送られ、身を強ばらせると国王様がおかしそうに笑った。
「よいよい。変わった娘も悪くないものよ」
「――は。それではこの娘はいかがいたしましょう?」
立ち上がった男性が私を前に押しやって国王様へとの距離を少し縮める。
近づくと国王様の顔が少し前よりも見え、ルニコ様よりも大分年上の印象を受けた。
「まずはおとなしくさせねばならぬからな」
国王様が右腕を横に動かすと、瞬きの間に王座の横に人が立っていて目を見開いてしまう。
丈が長い外套に身を包み、帽子をかぶっているために顔は見えないけれど、背の高さから男性であることがうかがえた。
「驚いたか? この者は私の遠縁でな、珍妙で便利な力が使える優秀な男よ」
満足げに言う国王様にルニコ様の言葉を思い出す。
ルニコ様もシン様を称賛していたけれどこんなに冷たい目はしていなかった。
国王様の本心が見えず背中がゾクリとすると、私の恐怖心に気づいたのか国王様は口の片端を上げて笑う。
「そんなに怯えることはない。この者の術により、すぐに私を好きでたまらなくなるのだからな……」
「な……っ!」
国王様の言葉にただただ驚く私の手首を、逃がすまいと男性がつかむ。
「離して下さい……!」
「おとなしくしろ! 命が惜しくないのか!」
鋭い声で怒鳴られてもおとなしくなんてできなかった。
心を操る術なんてかけられたらシン様のことを忘れてしまう。
――そんなの絶対に嫌だ!
シン様を好きな気持ちを忘れたくない……!
静かな足音をたてて術者が近づいてくる。
「シン様……っ!」
もうダメだ。そう思って固く目を閉じると痛みを訴える叫び声が間近で聞こえて再び目を開けた。
「何をする……!」
目の前に迫っていた術者の手に一匹の蛇が噛みついていた。
――ううん、それだけじゃない。
国王様のまわりにも威嚇する蛇が何匹もいて、私の手首をつかんでいた男性は国王様を守るべく王座へと駆け寄って行く。
――逃げるなら今しかない!