長い時間馬車に揺られ、馬車が停止したと思うや否や外へと連れ出され、足元をもつれさせる私の目には立派な建物が映った。
真っ白な壁は汚れ一つないようで、あちこちに金の装飾が施されて夕日の下で輝いている。
大きな窓が規則正しく並び、部屋と階数の多さを表していて私はポカンとしてしまった。
「早く着いてこい」
乱暴な足取りで王宮の中へと入っていく男性の後ろを慌てて着いていく。
私に戦う術があるなら逃げ出せるかもしれないのに。
母に教わった護身術ではどうにもならないだろうことは、馬車の中で突きつけられた剣の速さから火を見るより明らかで今は従うしかない。
神経を尖らせながら、一歩一歩私は踏みしめた。
中に入ると辺りは金色だらけの装飾で目がチカチカする。
まるで煌びやかさで威厳を示しているようで息苦しさを感じてしまう。
中に入ってしばらく歩いて行くと、一つの部屋の前で男性が立ち止まって扉を開けた。
「さっさとその薄汚い形をどうにかしろ」
「わ……っ!」
ドンと背中を押され部屋に放りこまれて扉を閉められる。
すると部屋の中には一人のメイドさんらしき人がいて目が合う。女性はニコリと笑って近づいてきた。
「急で大変かとは思いますがまずはお風呂にお入り下さい」
「さあ」と促す目は暗く濁っていて断れそうになく、私はおとなしく服を脱いでいく。
奥へ進むと浴槽があって湯気がのぼっていた。
肩までつかるとお湯は半透明な白色をしていて花のようないい香りがする。
それから髪を洗って体を洗ってもう一度浴槽につかって。
あがる頃には少しだけ気分がすっきりしたけれど、メイドさんの姿にメイさんの姿が重なり、私はここが見知らぬ場所なんだと改めて認識した。
いつの間にか用意されていた真っ赤なドレスを着せられ、まるで人形になった気持ちで部屋を出る。
慣れないかかとの高い靴に足元をフラフラさせていると近くにいたのだろうか浴室に放りこんだ男性が側に立っていて、頭からつま先までを見た後にフッと鼻で笑った。
「こい」
ツイと顎先で行く先を示して歩く後ろ姿をヨロヨロしながら必死に追いかけた。
***
「国王様がお待ちだ」
男性が大きな扉を叩き、「失礼します」と扉を開ける。
中に入って奥へと進むと、一番奥の王座にアガタ様と似た容姿を持つ年配と見える男性が座っていた。