「え……」

 ふと蛇と視線がかち合う。すると蛇はもの凄い速さで私に向かってきた。
 あまりの速さに声をあげる暇もなく、かまれる、そう思って目をつぶる。
 けれど痛みがやってこないので恐る恐る目を開けた。
 すると目の前であまり大きくない蛇がとぐろを巻いて顔をこちらに向けている。
 不思議に思いながら私は蛇の色に驚いた。蛇は白い体に赤い目を持つ、シン様の分身の蛇と同じだった。
 首を傾げると蛇も頭を動かしてくれたので何だか嬉しくなった私は勝手にシロと名づけ、日が暮れるまで蛇と共に作業をするのだった。


***


 夕方、労働者の泊まり小屋にシロを連れて戻ると見張り役の人に怒鳴られ、私は謝って慌てて外へ出た。
 出てくる時に夕食のパンとスープは持ってきたので、どこか食べる場所はないかと辺りを見ると少し離れた場所に古そうな小屋があった。

「何とか大丈夫かな……?」

 一人呟きながらはずれかかった扉を動かして中に入る。
 中はボロボロだったけど寝泊まりできないほどではなかったので、作業ズボンと一緒にもらった布切れで座るあたりを拭いて腰を下ろした。
 パンとスープを食べ終えて固い床に横になる。
 日が落ちてしまった今はほとんど見えないけど、窓から入りこむ月明かりがかすかにシロの姿を照らしていた。
 ――今思うとシン様の部屋を飛び出した時、私は悲しかったんだと思う。
 シン様がアガタ様を選んだ。そう思うと胸が苦しくなって泣きたくなる。
 シン様の側にいたいと思ってしまう。
 アガタ様じゃなくて自分を選んでほしい。そう思ってしまう。

「シン様が好き……。今さら気づいたって遅いのにね……?」

 涙を流しながらシロを見ればシロは静かに私の側までやってきて、まるでシン様のかわりにいてくれてるようでしばらく涙は止まらなかった――。