何だか焦ってるこちらが間違えてるみたいで気が遠くなりそう。
「ほらほら泣かないで。笑っているほうがいいことがあるよ」
「……お父さん。王族の方相手にそれは無理だと思う」
「大丈夫、大丈夫」とのんびり言って笑えるのがすごい。
普段お母さんの印象が強いけどお父さんも意外と手強い人なのかもしれないと馬車の中で揺られながらしみじみ思った。
――結局、王宮に着いたのは星が輝く夜の時刻。
大幅な遅れからか王宮の入り口近くに光と人影が見える。近づいて行くと女性の姿で、体を固くする私に「メイドさんだから安心しなさい」とお父さんが穏やかに言う。
入り口前に着くとメイド服を纏った女性が二人、入り口近くで待っていてくれた。
二人の手には炎や光などの力を蓄えて必要な時に使える蓄力石(ちくりょくせき)があり、優しい光が馬車から降りる私達を照らす。
「トリステ様、お疲れ様です」
「予定時刻を過ぎてもお戻りにならないので心配いたしました!」
心配そうなメイドさん達、一人は黒髪に同じ色の目で厳しそうな綺麗な人、もう一人は茶髪に同じ色の目で小柄で可愛らしい人――にお父さんが「リタが娘を気に入ってくれたようでね……」とまだ馬車に繋がれたままの馬を見た。
この白馬はリタっていうんだ。機会があったら性別を聞いてみようと思う。
「リタが? それは珍しいですね」
厳しそうな印象のメイドさんが驚いた様子でこちらを見たので私は慌てて頭を下げる。
「あの、カルドーレと申します! よろしくお願いします……っ」
「第一印象がいいにこしたことはないからね。自分から名乗るようにしな」と昨夜お母さんに繰り返し言われていたので実行してみる。
すごく緊張して泣きそうになるけど何とか我慢。
するとメイドさん達が笑顔を浮かべてくれた。
「私はクレアです。よろしくお願いいたします」
「わたしはメイです! よろしくお願いします!」
涼やかな声と明るく元気そうな声が人柄を表しているみたいだと思いながら改めて頭を下げた。
それからお父さんが面談について聞くと、クレアさんから「他にも到着が遅れている方がいらっしゃるので、公平を保つために面談は明日へと変更になりました」と返答をもらえて一安心。