「……普通だったらもっと怒るはずだよね」


その言葉にえみがふくれっ面をする。


「でも、どうしてだろう。他にもなんだか、理由がある気がして」

「理由?」


龍也君にだまされていたこと、悔しいと思ってないと言ったら嘘になる。

だけど、それでもあまり怒る気になれない。


「龍也君の笑った顔とか、優しくしてくれたこととか。
どうしても、全部演技だって思えないんだ」


えみはすごく悔しそうに歯をくいしばっている。


「甘いよ! ハル騙されてるんだって! 
そうやって優しくしといて、こっぴどく振るまでがゲームなんでしょ!?
ほんと最低だよっ!」

「そうだよね、きっと」



分かってる。
本当は大嫌いだって言われてたんだから。


「でも今までのことを思い出すと、どうしても嫌な人だって思えなくて」

「あんたいい子すぎるでしょ。ぶん殴ってやんなよ!
つか殴れ! むしろ私が殴る!」

「あはは、だめだってば」

「だからってさぁ!」


そう言ったあと、私の顔を覗きこみ、えみはさっきまでとは違う声で問いかける。



「……ねぇ、ハル。
もしかして大神のこと、好きになっちゃったの?」


「……え?」