「ねぇ龍也君、もう授業始まったよね? 教室に戻ってもいいよ。私、大丈夫だから」


するとめんどくさそうに口をとがらせる。


「いい、この時間はさぼり。途中から行くと面倒だし」



それから部屋に人の気配がしないのに気付き、きょろきょろする。
普通なら保険医さんがいるけれど、やっぱり見当たらない。


「先生は?」

「今日は外出中だってよ。ラッキーだったな。いるとさぼれねーから」


「もう……」


「お前はいいのかよ、さぼって」

「別にいいかな、たまには」


普段の私ならすぐに授業に行く所だったけれど、今日はどうしてもそんな気分になれなかった。


小さく笑うと、大きな両手で急に顔を挟まれた。


「せっかく二人きりだし、いちゃいちゃするか?」

「えっ」


とくとくと鼓動がはやくなる。
彼の瞳はいつもまっすぐに私を見つめる。


嘘のない、一人きりで生きてる強い獣みたいな、きれいな瞳。


……だからこそ龍也君が、何を考えているのか分からない。

冗談なのか、それとも本気なのか。
考えれば考えるほど色々分からなくなって、鼻がつんとした。