彼がそのまま帰って行こうとするのを見て。
鼓動が早くなり、腕が一人でに伸びる。
私はなぜか、彼のえりを握って引き止めてしまった。
「龍也君!」
龍也君は、足を止めてじっと私を見る。
「あ、あの、あの……」
「あ?」
「家、入りますか?」
彼はすごく驚いた顔をしていた。
安心してほしい。
私はもっと驚いてる。
私、なんでこんなこと言ってるんだろ。
自分でも分からないけれど、なぜか家に誘ってしまった。
「どうぞ」
お母さんは買い物に出かけているらしい。
家の中に誰もいなかったので、とりあえず彼を自分の部屋に通す。
「ごめん、掃除してないから汚いけど」
龍也君は堂々と部屋の中を観察している。
「へー、なんかふつーの部屋だな。エロい本とかねーの?」
「ありませんっ!」
それから本棚の前に立ち、並べてあった本をぱらぱらとめくる。
「勉強の本ばっかじゃん」
「後ろには漫画もあるよ」
「あ、この漫画知ってる」
「本当ですか?」
龍也君が見せたのは、月刊雑誌にのっている少女漫画だった。
高校生が恋愛するやつ。
意外だなー、なんで知ってるんだろう。
「読んだことあるの?」
「あぁ、最初の方だけ。主人公の友達の女がかわいい」
「いいですよね、みどりちゃん」
下からお茶とまんじゅうを持ってきて彼に渡す。
「どうぞ」
「お、うまそう」
彼はにこにこ笑いながら、ぺりっと包装をはがしておまんじゅうをたべる。
やっぱり甘い物を食べる時の龍也君は、幸せそうだ。

