私と龍也君は校舎の裏にまわる。
応援部の人が叫んでいる声が遠くから聞こえた。
まだ心臓がばくばくしている。
白い壁に背中を当て、ほっと息をつく。
龍也君が妙ににやにやしているのに気づき、口が変な形に曲がった。
「で、恥ずかしいことをされる気になったか」
まだ諦めてなかった!
再び顔を掴まれそうになり、必死に抵抗する。
「言います! 言いますから!」
「ったく、さっさと言っておけばいいものを」
きゅっと唇を小さく噛み、一息で言い切った。
「私、先生になりたいの」
それを聞いた時の龍也君は。
なんだかすごく、不機嫌そうだった。
まるで冷蔵庫にいれて食べるのを楽しみにしていたプリンが、誰かに食べられちゃったみたいに期待はずれというか、がっかりした顔だった。
「どうして教師? 学校の?」
「そう、……です」
「くっだらねー」
彼の言葉がまっすぐに私の胸に突き刺さる。
別に頑張れとか、すごいとか、そういう言葉を期待していたわけじゃない。
だけど私全部がくだらないと言われてしまったみたいで、足が震えた。
「どうして?」
「教師なんて、クズばっかりじゃねーか。わざわざそんなもんになりたがるやつの気持ちがわかんねー」
言われた途端、まぶたがじわりと熱くなる。
「どうしてそんなこと言うの?」
声が泣きそうな響きになってしまって、恥ずかしくて逃げ出した。
「私もう帰る!」
「おい、待てよ!」
彼の声に聞こえないふりをし、全力で走って自転車置場に急ぐ。
自転車のカゴに鞄を投げ入れ、鍵を開けて一生懸命こいだ。
やっぱり言うんじゃなかった!
だけどいくらなんでもあんな言い方しなくたっていいのに。
学校を出て龍也君の声が聞こえなくなり、ちらりと後ろを振り返る。
置き去りにしてしまって、少し悪かったかな。
けれど、もう元の場所に戻る気にはなれなかった。

