浮かんでくる涙を拭いながら、彼に問いかける。


「ねぇ、龍也君。どうしてケンカしたの? 
派閥を抜けるのって、すごく大変なことなんでしょ?」


龍也君は目を閉じ、小さな声でささやくように答える。


「ひなと一緒にいるには、あのままの自分じゃダメだと思ったから」

「……私と?」

「変わりたかったんだ」


その言葉は、小さな声なのにすごくはっきりとした響きで。
思わず胸をつかれたような気持ちになった。


「教師になりたいって、頑張ってるひなは俺にはすごく眩しく見えたから。
俺もその隣にいても、おかしくないように、変わりたかった。
眩しくて、きれいだったから」


薄く笑みを浮かべ、私を見上げる。


「俺も光に触れたかった。
今までの自分を、脱ぎ捨てて。
違う自分になりたかったんだ」


そう言った後、諦めたみたいに軽く笑う。


「……もう遅すぎるかもしんねーけど」

「そんなことないっ!」



否定したあと、もう一度言葉を重ねる。


「……そんなこと、ないよ」


「うん」


熱い感情がぶわっと湧き上がってくる。


嬉しかった。
ケンカして、ケガをしてしまったことはすごく悲しいけれど。


そんな風に思っていてくれてるなんて、知らなかったから。


「龍也君、私のことが大嫌いなんじゃなかったの?」