「これはこの定理から、この公式使うの。だから答えは…ってなる。」



講義から50分、わかる気配がしない。


舜が悪いんじゃない。

そもそも、その定理を知らない。


私の頭の悪さは、舜が思う私の理解のレベルを超えていることが判明した。



「マヌケづら。どうせこの定理から覚えてねーんだろ?」


雅樹が口を挟んだ。
同時にペンでぴしっと頭を叩いた。


「ちょっと待って!今、頭の引き出しから取り出してんの。見たことはあるの、絶対!」

頭をゆさゆさ振り回して記憶を取り出すけど全く出てこない。



「舜、ちょっとストップ。
なるみ、定理すら知らねーから、解説待ってあげて」


雅樹が解説を止めて、紙とペンを取り出し、何かサラサラと書いた。

「これ、この定理の証明。
バカでもわかるからこの証明なら。」

と紙を投げ出した。



あ、これなら見たことあるかも。


「これでこうして…こうか!
あ、解けた!」


やっと解けた一問で、時間は1時間も過ぎていた。


「ん、今日の小湊塾は終わりだな」

鞄をもって、雅樹が伸びをした。









「ごめん。なるみがわかんなかったって気付かなくて…」

舜が申し訳無さそうに謝る。


「ううん。私こそ付き合わせちゃってごめんね?あ、そうだ!帰りどっか寄って行こうよ!教えてくれたお礼したいし」


「俺、駅前の福々堂の苺大福。」

「雅樹、あんたには言ってない!」

雅樹を睨みつけると、

「俺も苺大福食べたいかな」

「じゃあ、福々堂ね。」






**







こういう時間が続けばいいと思っていた。

むしろ続くと思っていた。



ばかだよ…


なんで、気付かなかったの…


幸せな日常のタイムリミットは、刻み始めていた。