外では、野球部が白球を追いかけ、
テニスコートからは、気持ちのいい音が
聞こえてくる放課後の2-1Hの教室。
「これも、赤。これも、赤。
うわ、数学まで赤点かよ」
私のテストを、この世のものではないような目で見る雅樹。
「もうちょっと勉強したほうがいいんじゃないの?なるみチャン?」
ニヤニヤしながら、おちょくってくるこの態度に私はむかついた。
「舜が教えてくれたとこは正解してるから。いいの!!」
雅樹から答案を取り返す。
赤点か…
私は、雅樹や舜みたいに賢くないし、
取り柄があるわけでもない。
まして、顔が可愛いとか性格がいいとかそんなのもない。
「2人が羨ましいよ…」
何気なくこぼしてしまった、愚痴。
私の幼なじみの2人は、
特待生とかいう女の子からすればヒーローのような存在で、それに羨望の眼差しを向けるしかない。
雅樹は、スポーツも出来るから、女の子たちの体育の授業はもはやスポーツ観戦と言うか、雅樹観戦。
舜は、優しい。こんなバカな私の勉強もみてくれるから。
お母さんみたいな存在。
「誰が羨ましいの?」
舜が教室に入ってきた。
手には、大きな茶封筒。
封筒には、東総合病院と書いてあった。
「あ、舜どこ行ってたの?」
何気なく聞くと、
「…えっと、進路指導室。大学の資料もらいに。」
舜は、手に持っていた茶封筒を急いで鞄に突っ込んだ。
なんだろ?
「お前、もう進学先決めてんの?」
ふと、雅樹が顔を上げる。
「とりあえずね。でも俺は地元かな。」
「え!舜残ってくれるの?」
3人でまた過ごせると思うと嬉しかった。
「なるみの頭で俺たちと同じ大学は厳しいと思うけどな。」
雅樹が、嫌味っぽく頭を撫でる。
「もう、やめてよ!今から頑張るの!
ね?舜」
くるりと振り返ると、
舜がテストの答案を拾い上げていた。
「そうだね。とりあえずこの赤点から片付けようか。」
優しく笑いながら、舜が赤ペンをとる。
机を並べて、小湊塾の開講です。とか冗談を言いながら、私は、数学の講義を聞いていた。