5月の午後ーーー

教室は暖かな日差しに包まれ生徒たちを眠りへと誘う。

海野 新 も例外では無かった。
只々眠く、机へ突っ伏して眠ろうかと考えていた時

「おぉ、来たか来たか。」

もう初老を迎える男性教師がいつもののんびりとした口調では無く、すこしの興奮と歓迎の気持ちが入り混じったような声。

クラスの大半はその重い瞼をこじ開け前を向いた。

ガラッ、

ドアの音がして入って来たのは
1人の少女。

「はい。皆さん前を向いて。今日から転校してきた 三枝 凛 さんです。自己紹介をお願いしますよ。」

「三枝凛です。よろしくお願いします」

小柄で華奢な体つき。腰まである黒髪のストレートが特徴的だった。
その口調は堂々としたものだったが
どこか機械的で人間としての明るさは感じられなかった。

「三枝の席は…お、三村の隣が空いているな。あそこに座りなさい。」

先生が誘導し座らせる。

「三枝は今日来たばかりで慣れていない事も多い。しっかりと皆んなでサポートしてあげてください。」

彼女の席は斜め前。

キーンコーンカーンコーン…

「お、鳴ってしまったな。では起立。
三枝は放課後職員室へ来るように。
はい、じゃ礼。」

すたすたと教室を出て行ったのを合図にわっと生徒たちが三枝凛の周りに集まった。

「ねえねえ、なんで昼から来たのー?
普通、朝じゃない?」
「家とかどこ?今度遊びに行ってもいいかな⁉︎」
「前とかどこの学校行ってたの?」
「なんでこの時期に転校したの?」

予想通り、彼女の周りにはクエスチョンマークが飛び交っている。

彼女は少し困った顔をして

「sorry,I can't speak Japanese.」

ゆっくり、しかし確実に紡がれた言葉。

俺も思わず、彼女の顔を見ていた。