禁門の変───は起こらず、火事だけは起こったのでどんどん焼け事件とよばれた七月の終わりからしばらくして、藤堂が江戸に発つ




「それじゃあ、平助君、気をつけてね」



屯所の門前で荷物を抱えた藤堂に挨拶をする



手が空いたから、と華蓮の他に沖田、永倉、原田、斎藤までもが見送りに出た



「おう、見送りありがとな
そっちこそ気をつけろよ」



「うん」



別れ際まで華蓮のことをを心配してくれるあたりがいかにも藤堂らしい



「土産、忘れんじゃねぇぞ」



「わかってるよ、しつこいなぁ」



永倉は藤堂が江戸に行くと決まってから、何度も同じ台詞を言っている気がする



──きっと寂しいんだろうなぁ



華蓮が知る以前から仲のよい古株の幹部たちの絆は華蓮が思う以上に強いのだろう




「んじゃ、またなっ!!」




藤堂はそのまま一度も振り返ることなく、堂々と歩いていった








「あ、平助君に何をしに行くのか聞くの忘れちゃった」



藤堂は支度で忙しそうだったから、今日までなかなか会えなかったし、土方が決めたのだろうが彼は何も言わなかった



「…お前に心配かけたくねぇんじゃねぇの?
多分、今回は新撰組の隊のことだからな」



ポン、と肩に手を置いてきたのは原田



横顔を盗み見ると、やはり寂しそうな表情だと感じた




「そうなのでしょうか……?」




そういうふうに言われると、ちょっと嬉しい



「あの土方さんだからな」



「……ふふ、はい」




気になる気もするが、藤堂が帰って来てから話を聞くことにした








何度目かになるが、この土方の判断と華蓮の油断は、後々史実では大変な人物を身内に招き入れてしまうことになるのである